建設業お役立ち情報!法定福利費の取り扱いと見積もりへの記載例

建設業界では今、社会保険の未加入対策に取り組んでいます。
人手不足と言われている建設業界の就労環境の改善や、持続的発展に必要な人材の確保を図るためです。
その象徴として、建設業許可を取得するには原則社会保険への加入が要件となりました。

社会保険の未加入対策を進めていく中で重要となるのが「社会保険料の支払い」です。
社会保険料は「法定福利費」に該当します。
建設業界で社会保険等未加入対策を進めていく中ではこの「法定福利費」の確保が重要というわけです。

今回は実際に過去建設会社様より相談を受けた、下請け企業から元請け企業へ見積もりする際の「法定福利費」の扱い方について解説します。

法定福利費とは

法定福利費とは、会社が福利厚生として支払う費用のうち、会社に支払いが義務付けられているものです。
建設業において、社会保険料や労働保険料、労災保険料などの社会保険費用を含めた、労務費の一部です。

法定福利費を内訳明示した見積書

これまでの建設業界の取引慣行では、トン単価や平米単価によって見積を出すことが一般的で、法定福利費がどのように取り扱われているのかが分かりにくい状況でした。
そこで、法定福利費を内訳明示した見積書(標準見積書)が導入されました。
下請企業が元請企業(直近上位の注文者)に対して提出している見積書を従来の総額によるものではなく、その中に含まれる法定福利費を内訳として明示したものです。
この見積書を活用することにより、社会保険等の加入に必要な金額をしっかりと確保できるようにしていこうとするためのものです。

「法定福利費」は、簡単に分けると工事原価に含められるものです。
国土交通省ガイドラインにも明記されており、工事原価に含める法定福利費とは、現場作業員、現場監督などの分となります。
経理スタッフ、営業スタッフの法定福利費は工事原価ではなく販管費となるので、一般的には上位業者の見積もりには含めません。

経理スタッフや営業スタッフの社会保険料も元請け企業に請求したい!とご相談を受けたことがあります。
基本的に、工事の見積もりに含める法定福利費は、現場作業員や現場監督などの分です。
それ以外の従業員の分を請求するとなると、工事の本体価格に×◯%の「管理費」などを計上して見積もりする場合もありますが、稀なケースと言えるでしょう。

見積書で内訳明示する法定福利費の範囲

見積書で内訳明示する法定福利費は、原則として健康保険料(介護保険料含む)、厚生年金保険料、雇用保険料のうち、現場労働者(技能労働者)の事業主(会社)負担分です。本人負担分は含めません。

法定福利費の基本的な算出方法

法定福利費は、通常、年間の賃金総額に各保険の保険料率を乗じて計算します。
しかし、各工事の見積りでは、労働者の年間賃金を把握することは不可能です。
そのため、見積額に計上した『労務費』を賃金とみなして、それに各保険の保険料率を乗じて算出する方法が一般的です。

法定福利費=労務費総額×法定保険料率

保険料率

健康保険及び介護保険の保険料率は、各社で加入している協会けんぽ(全国健康保険協会)や健康保険組合の保険料率を用います。

健康保険、厚生年金保険の適用除外者

常時使用する労働者が5人未満の個人事業や一人親方などは、いわゆる適用除外となり、健康保険、厚生年金保険に加入する義務がありません。
そのため、各保険の事業主負担は発生しません。
したがって、適用除外となっている現場作業員の法定福利費については、内訳明示する法定福利費から除外する必要があります。

ただし、実際には見積段階で適用除外となる作業員の方を把握することは、実務上、難しいと言われています。
そのため、見積段階では、全ての現場作業員の方の加入を前提として健康保険・厚生年金保険に加入するための費用を内訳明示の対象とし、その後、元請企業(直近上位の注文者)と協議を行い、最終的な金額を決定していきます。

見積書の作成例

法定福利費を内訳明示した見積書の作成例は以下となります。

1.労務費総額(B)を各個社・業界の実情に合わせた方法で算出。
2.算出した労務費総額(B)に対して、法定で定められた保険料率を乗じて各保険の概算保険料を算出(E,F,G,H)。
※介護保険料については、事業主負担相当の保険料率(保険料率の2 分の1)に「被保険者となる40 歳以上64 歳以下の割合(52.9%、協会けんぽH25 年度の場合)」を乗じた比率とする

協会けんぽの場合

介護保険料率の算式 = 1.58% × 1/2 × 52.9% = 0.418% (r)
3.各保険の概算保険料を合計し、内訳明示する概算保険料総額を算出
(I= E+F+G+H または B×t)
4.小計額(J)を算出。
5.消費税(K)を算出。
6.合計(L)を算出し、見積金額として計上。

法定福利費も消費税の対象になります。

下請企業に工事を発注する場合

下請企業に工事を発注する予定がある場合、下請企業の法定福利費も含めて注文者に見積書を作成します。
先に述べた通り、下請企業がすべて一人親方の場合などは該当しませんので注意しましょう。
自社が作成する見積書そのものに含まれる『工賃』を基本として、法定福利費を算出すれば、下請代金に含まれる法定福利費も含まれているものと考えられます。

まとめ

法定福利費を内訳明示した見積書は、作成しなかったからといって、特に罰則等はありません。
しかし、社会保険等への加入を促進するためには加入に必要な法定福利費をしっかりと確保していく必要があります。
国土交通省でも法定福利費を内訳明示した見積書の活用を推進しています。
こうした観点からも、法定福利費を内訳明示した見積書を作成していただくことが求められていくといえるでしょう。

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