飲食店のM&Aで営業許可はどうなる?「地位承継届」を大阪の行政書士が徹底解説
―飲食店のM&Aで一番困るのは「許可」の引継ぎ問題です。
飲食店のM&A(事業譲渡・会社譲渡)が近年、大阪でも急増しています。後継者不足、コロナ禍を経た事業再編、そして「のれん」や「立地」に価値を感じて買いたい側のニーズが重なった結果です。
しかし、飲食店の売買において買主・売主の双方が見落としがちなのが、食品衛生法に基づく「飲食店営業許可」の取扱いです。
「店を買ったはいいけど、翌日からいきなり営業できるの?」
この疑問に対する答えは、手続きの仕方によって大きく変わります。正しく「地位承継届」を活用すれば、譲渡日から1日も空けることなく連続して営業を続けることが可能です。一方、手順を誤れば、新規許可が下りるまでの期間、営業できない空白期間が生じるリスクもあります。
大阪府内の飲食店M&Aを数多くサポートしてきた行政書士として、この記事では「地位承継届」の仕組みと、M&Aにおける実務上の注意点をわかりやすくお伝えします。

1. そもそも「飲食店営業許可の地位承継」とは何か
飲食店を開業するには、食品衛生法に基づく「飲食店営業許可」が必要です。この許可は、店舗の設備・構造や申請者(衛生管理者など)の要件を審査した上で行政が個別に与えるものです。
つまり、許可は「その人・その法人」に対して与えられたものであり、原則として他人に譲渡することはできません。
ところが、食品衛生法は一定のケースについて「許可営業者の地位の承継」を認めています。地位の承継とは、「前の許可営業者が持っていた許可の立場(地位)を、新しい営業者がそのまま引き継ぐ」ということです。
地位承継が認められるケースは主に次の3つです。
- 営業の譲渡(売買・M&Aによる承継)
- 相続(許可営業者が死亡した場合)
- 合併・会社分割(会社法に基づく組織再編)
M&Aにおいて最も多いのは①の営業譲渡によるケースです。
本記事では、この「営業譲渡による地位承継」に絞って詳しく解説していきます。
2. 新規許可との決定的な違い―「1日の空白もなく営業できる」
地位承継の最大のメリットは、「営業の空白が生じない」という点です。
通常、飲食店の新規営業許可を取得しようとすると、次のようなステップが必要です。
- 保健所への申請書類の準備・提出
- 保健所による施設の現地調査(施設が基準を満たしているか確認)
- 許可証の交付(調査から交付まで2週間程度)
大阪市の場合、オープン予定日の2〜3週間前には申請手続きを行うよう案内されています。つまり、新規許可では申請から許可証交付まで少なくとも2〜3週間かかり、その間は営業できません。
これがM&Aの現場では大きな問題になります。譲渡が完了した翌日から売上を立てたいのに、許可が下りるまで店を閉めなければならない―買主にとっては大きな損失です。
地位承継届ならば、この問題を回避できます。 譲渡が行われた日以降、届出を提出することで、前の許可営業者の地位をそのまま引き継いで営業を継続できます。
ポイント:地位承継届の提出タイミング 届出は「譲渡された日以降」に提出できます。事前申請ではなく、あくまで譲渡が完了してからの届出であることに注意してください。ただし、届出が遅れることによるリスクを避けるため、譲渡日またはその直後に速やかに提出することをお勧めします。
3. 大阪市における地位承継届の必要書類(営業譲渡のケース)
大阪市に地位承継届を提出する場合、営業譲渡による承継では以下の書類が必要です。施設所在地を担当する生活衛生監視事務所の窓口への持参が基本です。
必須書類
① 地位承継届出書
所定の様式に、承継する営業の種類・施設名称・所在地・譲受人の氏名(名称)・譲渡人の氏名(名称)などを記入します。大阪市のウェブサイトからPDF・XLSX形式でダウンロードできます。
② 譲渡が行われたことを証する書類(譲渡契約書等の写しなど)
当事者による譲渡の意思と譲渡の事実が確認できるものが必要です。M&Aの場合は事業譲渡契約書の写しが該当します。または、「食品営業許可施設・営業届出施設の営業譲渡に係る証明書」を使うこともできます。
③ 食品営業許可施設・営業届出施設の営業譲渡に係る確認書
大阪市所定の様式です。譲受人が確認します。
④ 現在の営業許可証(原本)
売主が保有している許可証を持参します。
⑤ 食品衛生責任者の資格を証する書類
調理師免許証、食品衛生責任者養成講習会修了証書など、譲受人側が配置する食品衛生責任者の資格証明書が必要です。
場合により必要な書類
⑥ 登記事項証明書(譲受人が法人の場合)
法人が買主になる場合は、最新の情報が反映された登記事項証明書が必要です(照合後に返却されます)。
⑦ 営業許可証紛失届出書(現許可証を紛失している場合)
売主が許可証を紛失している場合は、紛失届の提出と譲渡人への確認が必要です。M&Aのデューデリジェンス時に許可証の所在を確認しておくことをお勧めします。
4. 旧食品衛生法(令和3年5月31日以前)の許可に注意
飲食店のM&Aでは、売主が長年営業している老舗店舗を買収するケースも少なくありません。その場合、現在保有している営業許可が令和3年(2021年)5月31日以前に取得した旧食品衛生法に基づくものである可能性があります。
令和3年6月1日に食品衛生法が改正され、許可申請の様式や手続きが変わりました。旧法に基づく許可の地位承継届は、現行法の手続きとは提出書類の一部が異なります。
5. M&Aで飲食店を買う前に確認すべき「許可」のチェックリスト
M&Aの実務では、契約締結前のデューデリジェンス(事前調査)段階から許可の状況を確認しておくことが重要です。以下のポイントをチェックしてください。
□ 現在の営業許可証は有効期限内か
食品衛生法の営業許可には有効期限があります(通常5〜8年)。取得直後の許可であれば残存期間が長いですが、更新直前のものであれば、地位承継後すぐに更新手続きが必要になります。
□ 許可の種類は譲渡後の業態と一致しているか
「飲食店営業」「喫茶店営業」など、許可の種類と実際の業態が一致しているか確認してください。業態を変更する場合は別途対応が必要です。
□ 現在の許可証原本が保管されているか
地位承継届の提出には原本が必要です。紛失している場合は追加手続きが生じます。
また、現在の営業者に許可取得時に申請書類の控えが残っているか確認しておくとスムーズです。
□ 施設の設備に法令違反がないか
設備基準を満たしていない状態で承継すると、後で行政指導を受けるリスクがあります。
□ 食品衛生責任者を確保できるか
譲受人側で食品衛生責任者の資格者を確保する必要があります。買収後に有資格者がいない、という事態は避けなければなりません。
□ 許可の取得年月日はいつか(旧法・新法の確認)
前述のとおり、令和3年5月31日以前の許可か否かで手続きが変わります。
6. BAR(深夜酒類提供飲食店)の場合は要注意!―「承継できない許可」がある
ここは特に重要なポイントです。
BARなど、深夜(午前0時以降)にお酒を提供する飲食店は、食品衛生法の営業許可に加えて、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)に基づく「深夜酒類提供飲食店営業の届出」 が必要です。これは食品衛生法の許可ではなく、所轄の警察署への届出です。
この深夜酒類提供飲食店営業の届出は、地位承継の制度がありません。
つまり、食品衛生法の営業許可は地位承継届で引き継げても、深夜酒類の届出は引き継げず、譲受人が新たに届け出をし直す必要があります。
M&Aのスケジュールには、警察署への新規届出の準備期間も織り込むことが不可欠です。深夜酒類提供飲食店の届出は、正式な受理まで時間がかかることもありますので所轄の警察署に確認しましょう。
7. 大阪市の提出窓口(生活衛生監視事務所)
地位承継届の提出先は、店舗(施設)の所在地を管轄する大阪市の生活衛生監視事務所です。
| 事務所名 | 所在地 | 担当区域 |
|---|---|---|
| 北部生活衛生監視事務所 | 北区扇町2-1-27(北区役所2階) | 北区・都島区・淀川区・東淀川区・旭区 |
| 西部生活衛生監視事務所 | 港区市岡1-15-25(港区役所4階) | 福島区・此花区・西区・港区・大正区・西淀川区 |
| 東部生活衛生監視事務所 | 中央区久太郎町1-2-27(中央区役所3階) | 中央区・天王寺区・浪速区・東成区・生野区・城東区・鶴見区 |
| 南東部生活衛生監視事務所 | 阿倍野区旭町1-1-17(サンビル阿倍野3階) | 阿倍野区・東住吉区・平野区 |
| 南西部生活衛生監視事務所 | 住之江区浜口東3-5-16 | 住之江区・住吉区・西成区 |
大阪市以外(堺市・東大阪市・豊中市など)の場合は、それぞれの市が管轄する保健所が窓口となります。大阪府内の手続きについてもお気軽にご相談ください。
8. 行政書士に依頼するメリット
「書類を準備して窓口に持っていくだけなら自分でできるのでは?」
確かに、地位承継届そのものはシンプルな届出です。しかし、M&Aを伴う場合には次のような場面で専門家のサポートが役立ちます。
① 必要書類の過不足チェック
譲渡契約書の内容が「譲渡の意思と事実を最低限確認できるもの」に該当するか、法人の場合の登記事項証明書が最新のものか、といった確認作業を的確に行います。
② 旧法・新法の判定と書類の選定
許可取得時期によって必要書類が異なるため、対象店舗の許可証を確認した上で正確な書類を準備します。
③ 食品衛生責任者の資格確認と対応策
譲受人側に有資格者がいない場合、講習会の受講や手配についてもアドバイスします。
④ 深夜酒類届出など関連手続きの整理
BARなど深夜営業を伴う場合、警察署への届出スケジュールも含めた全体の段取りを整理します。
9. まとめ―地位承継届を正しく使えば、M&Aの翌日から営業できる
飲食店のM&A(営業譲渡)において、食品衛生法に基づく「地位承継届」を活用すれば、1日の空白もなく営業を継続することが可能です。
これは新規許可申請(2〜3週間かかる)と比べて、買主にとって非常に大きなメリットです。
ただし、手続きには複数の書類が必要であり、またBARなど深夜酒類提供を行う店舗では、食品衛生法とは別に警察署への届出が必要で、こちらは承継できない点に注意が必要です。
大阪府内での飲食店M&A・事業譲渡に伴う地位承継届の手続き、および関連する各種許認可手続きについては、ぜひ当事務所にご相談ください。
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