建築物清掃業は、読んでそのまんま、建築物を清掃する業務です。
飲食店や不動産業をはじめようとするときは、役所に申請して許可や免許を受ける必要がありますが、建築物清掃業をはじめる際にはこのような申請も許認可も必要ありません。基本的にはスキルと営業力さえあれば、誰でも比較的簡単に開業することができるお仕事のひとつです。
その一方で、建築物衛生法という法律では、一定の基準を満たす建築物清掃業者に対して、都道府県知事が「お墨付き」を与えるという事業者登録制度が設けられています。
この記事では、建築物清掃業の登録制度の全体像や手続方法について、詳しく解説しています。
★この記事で分かること
◎建築物清掃業の登録制度って?
◎登録のメリットとは?
◎手続きの方法について
◎申請のサポートについて
目次
はじめにお伝えしたように、建築物清掃業を行う上で、本来は行政機関からの許可や認可は必要ありません。ですが仕事の重要性の割に行政のコントロールが利かないとなると、事業者の資質の向上という面では支障が出るかもしれません。
馬に人参といえば聞こえは良くないですが、何かしらのステップアップとなる目標があれば、人はより一層の努力を行うものです。
このような観点から、建築物の環境衛生上の維持管理を行う事業者について、一定の物的、人的基準を満たしている事業者については、申請することにより都道府県知事の登録を受けることができるという制度が設けられました。
登録制度の活用自体は任意ですが、未登録の事業者は、登録を受けた事業者である旨や、これに類似する表示を行うことはできません。
とは言え、具体的なメリットがなければ人はなかなか動いてくれません。先ほど馬と人参を例に取りましたが、ここから先はまさに人参のお話しです。笑
登録をすることで得られるメリットには、登録をすることによりプラスとなる部分(積極的メリット)と、登録をすることで解消されるマイナスの部分(消極的メリット)とがあります。ここではこれらを総合し、どのようなメリットが発生するのかについて考えていくことにしましょう。
特定建築物とは、興行場、百貨店、店舗、事務所、学校、共同住宅等の用に供される相当程度の規模を有する建築物であって、多数の者が使用し、又は利用し、かつ、その維持管理について環境衛生上特に配慮が必要なもの(下表)をいいます。
特定建築物の維持管理は、本来であれば建築物の所有者や占有者に義務付けられるものですが、専門の機械器具と十分な知識経験が必要とされることから、これを専門の清掃業者に委託することが認められています。
登録を受けた事業者は、いわば行政機関の「お墨付き」専門業者ですから、この点が競合との差別化において役立つことは間違いありません。
用途 | 延べ面積 |
興行場、百貨店、集会場、図書館、博物館、美術館又は遊技場 | 3,000㎡以上 |
店舗又は事務所 | 3,000㎡以上 |
学校教育法第1条に規定する学校又は幼保連携型認定こども園(第1条学校等) | 8,000㎡以上 |
第1条学校等以外の学校(研修所を含む) | 3,000㎡以上 |
旅館 | 3,000㎡以上 |
公共事業として建築物の清掃を民間に発注する際には、入札により事業者を決定しますが、ほとんどの自治体では、登録を入札に参加するための要件としています。
公共事業としての清掃は、契約期間が長期にわたることも多く、その期間内は安定した収入源となるため、経営を安定させるためのブーストとなります。
外国から技能実習生を受け入れるためには、建築物清掃業又は建築物環境衛生総合管理業の登録を受けていることが要件となります。
実際に、技能実習生を受け入れるために登録を受けたいというご相談は、当事務所でも増加傾向にあります。
何度も言いますが、建築物清掃業の登録は、行政機関からの「お墨付き」を貰うための制度です。任意の制度であるからこそ同業他社との差別化が図れます。
また、登録事業者であることは大々的に宣伝材料となるので、事業者のブランド力向上に一役買うことは間違いありません。
★登録のメリット(まとめ)
①特定建築物の清掃業務を受託できる
②公共事業の入札に参加できる
③外国から技能実習生を受け入れられる
④ブランド力が向上する
登録を受けようとするときは、後述する基準をすべて満たした上で、建築物清掃業を行う営業所ごとに、営業所の所在地を管轄する都道府県知事に対し、必要書類を提出して申請を行います。
実際の担当窓口は都道府県の担当課になりますが、保健所を設置する政令指定都市(大阪市、神戸市等)や中核市(東大阪市等)では、市の保健所が申請窓口となります。
登録の有効期間は6年間ですが、6年を超えて登録事業者である旨の表示をしようとする場合には、更新ではなく、新たに申請を行い、改めて登録を受けることが必要となります。
この記事では省略していますが、建築物衛生管理業は、次表のとおり、1号から8号までの事業区分に分かれています。建築物清掃業は1号事業に該当しますが、登録の申請はこの事業区分ごとに行います。
1号 | 建築物清掃業 | 建築物内の清掃を行う事業(建築物の外壁や窓の清掃、給排水設備のみの清掃を行う事業は含まない) |
---|---|---|
2号 | 建築物空気環境測定業 | 建築物内の空気環境(温度、湿度、浮遊粉じん量、一酸化炭素濃度、二酸化炭素濃度、気流)の測定を行う事業 |
3号 | 建築物空気調和用ダクト清掃業 | 建築物の空気調和用ダクトの清掃を行う事業 |
4号 | 建築物飲料水水質検査業 | 建築物における飲料水について、「水質基準に関する省令」の表の下欄に掲げる方法により水質検査を行う事業 |
5号 | 建築物飲料水貯水槽清掃業 | 建築物の飲料水貯水槽(受水槽、高置水槽等)の清掃を行う事業 |
6号 | 建築物排水管清掃業 | 建築物の排水管の清掃を行う事業 |
7号 | 建築物ねずみ昆虫等防除業 | 建築物内において、ねずみ昆虫等、人の健康を損なう事態を生じさせるおそれのある動物の防除を行う事業 |
8号 | 建築物環境衛生総合管理業 | 建築物における清掃、空気調和設備及び機械換気設備の運転、日常的な点検及び補修(以下「運転等」という。)並びに空気環境の測定、給水及び排水に関する設備の運転等並びに給水栓における水に含まれる遊離残留塩素の検査並びに給水栓における水の色、濁り、臭い及び味の検査であって、特定建築物の衛生的環境の維持管理に必要な程度のものを併せ行う事業 |
営業所について
建築物清掃業の営業所として認められるためには、客観的にみて事業活動を行っていることが明らかである必要があります。したがって、単なる登記上の事務所や、建築物内の単なる作業員控室等を営業所として登録することはできません。
なお、建築物清掃業の登録は営業所ごとに行われるため、登録を受けた営業所以外の営業所については、登録業者である旨の表示を行うことはできません。
・機械器具その他の設備に関する基準(物的基準)
・事業に従事する者の資格に関する基準(人的基準)
・その他作業方法や機械器具の維持管理方法などに関する基準
登録を受けるためには、上記の基準にすべて適合させる必要があります。このうち最も高いハードルが清掃作業監督者の選任になると思われますが、基準についてはひとつずつしっかりと確認し、内容を把握するようにしてください。
①真空掃除機、②床みがき機を有すること
上記の機械器具は、1事業区分につき1営業所でのみ登録の対象となります。たとえば建築物清掃業(1号)と建築物環境衛生総合管理業(8号)とで機械器具を使い回したり、複数の営業所で登録を受けることはできません。
申請の際には、事業の実施に用いる機械器具その他の設備の名称、型式、数量及び購入年月を記入した名簿が必要となります。また、機械器具その他の設備は、原則として所有している必要がありますが、借入れの場合は、登録事業者が登録の有効期間において長期的、恒常的に占有していることを証明する貸出証明書を添付する必要があります。
①登録しようとする営業所について、清掃作業監督者を1名以上配置すること
②作業従事者は、社内研修又は登録団体研修を受講すること
登録しようとする営業所には、営業所ごとに清掃作業監督者を1名以上配置する必要があります。1人の清掃作業監督者を2以上の営業所又は事業区分の監督者等とすることは認められていません。たとえば、建築物環境衛生総合管理業を兼業する営業所において、建築物清掃業の清掃作業監督者と、建築物環境衛生総合管理業の統括管理者とを兼務することはできません。
また、特定建築物においては建築物環境衛生管理技術者を配置する義務がありますが、清掃作業監督者は、この建築物環境衛生管理技術者との兼務についても認められていません。
清掃作業従事者の研修については、登録申請時に研修を受講済みである必要はありませんが、この場合は、社内研修又は登録団体研修の受講計画を提出することになります。
★注意点
清掃作業監督者の資格を得るためには、①ビルクリーニング技能検定合格者(1級)又はビルクリーニング技能審査合格者、②建築物環境衛生管理技術者の免状を有する者のいずれかに該当する者が、清掃作業監督者の講習会を修了する必要があります。
この資格を得ることが実は一番難しく、期間も費用も必要になります。登録を急ぐ場合は、清掃作業監督者の資格者を新たに雇用することも選択肢とすることも検討するようにしてください。
その他の基準は、おもに日常の衛生管理に係る基準です。項目が多いので、ここではさらっとだけ確認するようにしてください。
①床面の清掃について、 日常における除じん作業のほか、 床維持剤の塗布の状況を点検し、必要に応じ、再塗装等を行うこと
②カーペット類の清掃について、 日常における除じん作業のほか、 汚れの状況を点検し、必要に応じ、シャンプークリー二ング、しみ抜き等を行うこと(洗剤を使用した時は、洗剤分がカーペット類に残留しないようにすること)
③日常的に清掃を行わない箇所の清掃について、 6か月以内ごとに1回、定期に汚れの状況を点検し、 必要に応じ、除じん、洗浄等を行うこと
④建築物内で発生する廃棄物の分別、収集、運搬及び貯留について、衛生的かつ効率的な方法により速やかに処理すること
⑤真空掃除機、床みがき機その他の清掃用の機械及びほうき、モップその他の清掃用器具並びにこれらの機械器具の保管庫について、定期に点検し、必要に応じ、整備、取替え等を行うこと
⑥廃棄物の収集・ 運搬設備、 貯留設備その他の処理設備について、 定期に点検し、必要に応じ、補修、消毒等を行うこと
⑦①~⑥の清掃作業等の方法について、 建築物の用途及び使用状況等を考慮した作業計画及び作業手順書を策定し、その計画及び手順書に基づき、清掃作業等を行うこと
⑧⑦に掲げる作業計画及び作業手順書の内容並びにこれらに基づく清掃作業の実施状況について、3か月以内ごとに1回、定期に点検し、必要に応じ、適切な措置を講ずること
⑨清掃作業及び清掃用機械器具等の維持管理は、 原則として自ら実施すること(これらの業務を他の者に委託する場合は、あらかじめ、委託を受ける者の氏名(法人にあっては名称)、委託する業務の範囲及び業務を委託する期間を建築物の所有者、占有者その他の者で当該建築物の維持管理について権原を有する者(以下、建築物維持管理権原者)に通知するとともに、受託者から業務の実施状況について報告を受ける等により、受託者の業務の方法が①~⑥までに掲げる要件を満たしていることを常時把握すること
⑩建築物維持管理権原者又は建築物環境衛生管理技術者からの清掃作業及び清掃用機械器具等の維持管理に係る苦情及び緊急の連絡に対して、迅速に対応できる体制を整備しておくこと
①清掃作業監督者の選任
↓
②書類の作成と収集
↓
③登録の申請
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④担当者による現地確認
↓
⑤登録の通知
手続きの流れは上記のとおりです。自治体によっては申請前に事前相談を求めてくることもあります。必要書類も自治体により少しずつ変わりますが、おおむね以下のものが要求されます。
・登録申請書
・清掃作業監督者名簿
・清掃作業監督者の資格証明書
・研修実施状況又は研修計画
・作業実施方法等
・設備機器名簿
なお、申請から登録完了までに要する期間は、30日〜50日程度です。
また、登録免許税が3万円〜5万円程度必要になります。(いずれも自治体ごとに異なります。)
当事務所では、建築物清掃業登録の申請を、担当窓口との協議から現地確認の立合いに至るまでサポートするサービスを提供しています。
申請に不慣れであれば、時間的コストの浪費につながり、結果として費用面にも逸失利益が発生してしまいます。
本申請は取り扱う行政書士も少なく、いざ探すとなれば苦労することは間違いありません。
当事務所は女性行政書士が切り盛りする行政書士事務所です。
女性ならではの柔軟性や丁寧さに加え、フットワークの軽さにも自信があります。
事務所は大阪ですが、他府県であっても出張する準備がございます。
許可の取得でお困りの際は、お気軽にお問合せくださいませ。
建築物清掃業登録申請 税抜き8万円~
変更届等 税抜き3万円~